研究内容

数値解析・衛星解析・現地観測を行っており,主な研究テーマは下記の二つです.
・大規模林野火災を対象とした乾燥害の水文学的評価
・大陸性内陸湖に関する持続可能性評価

大規模林野火災を対象とした乾燥害の水文学的評価

近年,2018年の米国加州の事例や2019年の豪州・ブラジルでの事例のように,乾燥による極端な林野火災が問題視されています.林野火災の多くは人為的な着火を原因としていますが,火種が人間の管理できない火災に発展する過程(火災の発生)と一度発生した火災が拡大する過程(火災の延焼)の双方は自然条件によるので,自然災害としての評価が必要です.気候変動による影響が顕在化してきたと言われている地域もあります.

日本でも林野火災の影響は甚大です.2017年に岩手県釜石市で発生した林野火災の焼損面積は400haを超えましたが,これは2016年の日本全体の焼失総面積(384ha)を超える規模です.この2017年には,釜石火災に加えて東北地方全域で林野火災が同時多発しています.そこで,極端な乾燥災害に関する水文学的な評価を日本・米国加州で進めています.

また,日本では林野火災発生時に焼損域の調査がされているものの,実際には同じ火災事例の焼損域内でも焼損の程度が異なって分布しています.樹幹には焼損の跡(樹幹火傷)が残されており焼損の程度だけでなく火災時の風向も推定できます.そこで,林野火災の発生・拡大のメカニズムや燃焼過程の変化等を詳しく研究するため樹幹火傷の広域観測を進めており,衛星解析との比較等も行っています.

大陸性内陸湖に関する持続可能性評価

アラル海やカスピ海などは流出河川を持たず,河川からの流入量と湖面からの蒸発量の絶妙な均衡によって面積が保たれています.このような閉鎖性内陸湖の中でも,貯水量が100Gt(琵琶湖の貯水量の5倍程度)を超えるような巨大な内陸湖が世界には点在しており,これを大陸性内陸湖と呼んでいます.

この大陸性内陸湖の中には面積が縮小・拡大しているものがあります.拡大時には湖の周辺で氾濫被害が生じ,汚水となった氾濫水が湖に流入するので水質悪化も生じます.一方で縮小時には,塩分濃度が上昇して生態系が崩壊したり,干上がって生じた砂漠には流径が細かい砂塵が堆積しているので砂嵐の原因にもなります.湖には塩分が含まれており,加えて流域内からの様々な有毒な化学物質が流れ込んでいるため,それらの物質が砂塵に析出して有毒な砂嵐となる場合もあります.

そこで,なぜ縮小・拡大するのか?という「原因としての水循環」と,縮小すると何が起こるのか?という「結果としての環境影響」の双方について,世界の様々な地域を対象に研究をしています.

「原因としての水循環」を知るためには,流域全体を研究対象にする必要があります.例えばカスピ海の流域面積は日本の面積の約9.5倍です.この広大な領域内で,人間活動や気候変動による水循環の変化が生じた場合に,大陸性内陸湖にはどのような影響が生じるのか.数値解析により研究しています.

「結果としての環境影響」は,湖の周辺での現地調査・観測が必要です.周辺地域への影響は多様・甚大であるため,多面的に調査する必要があります.現在は,”既に縮小した大陸性内陸湖”であるアラル海(ウズベキスタン)と,”これから縮小することが危惧される”トゥルカナ湖(ケニア)を対象に調査・気象観測等を続けています.